下痢を主訴として外来受診した患者の便培養
糞便のグラム染色では有意な所見は認めず、通常の食中毒菌目的で培養実施。
アルカリペプトン水で増菌後にTCBS寒天培地に接種して培養したのが以下の写真
白糖非分解のコロニーを認めていますね。オキシダーゼ陽性(別培地にて実施)ということで、これは腸炎ビブリオですね・・・・ ところが、コロニーを良く見てみると…
硫化水素出してますね。腸炎ビブリオの顔とは異なることがわかります。
じゃあ なんだろうということで同定してみましょう!
まずは試験管培地各種
アルカリペプトン水 3%,7%に発育ということは、やはり腸炎ビブリオか?
Citrate (−)
TSIは硫化水素産生、斜面部は(−)高層部はわかりづらいですが(−)です。
OIML インドール(−)、オルニチン(+)、リジン(+)、運動性(+)
SIM インドール(−)、運動性(+)、硫化水素(+)
VP(−)
DNase (+)
見慣れた技師の方なら最初のコロニーでピンと来るでしょう。
自動機器で同定すると・・・・
Shewanella algae
この菌はAchromobacterやPseudomonas属などに分類されていたことのあるブドウ糖非発酵菌の仲間で、環境中に幅広く生息し、海にも生息する海洋バクテリアとして知られる菌です。病原性については不明で、コロナイゼーションとして検出されることがある菌ですが、日和見感染の原因菌としての報告例もあります。筆者も年に1,2度はお目にかかる菌です。
同定機器やキットによってはShewanella putrefaciensと同定されますが、データベースが不十分なためで、人体分離株の多くはShewanella algaeとされます。
Shewanella algaeとShewanella putrefaciensを鑑別するには、
・42℃での発育 S. algae ( + ) / S. putrefaciens ( – )
・ヒツジ血液寒天培地での溶血 S. algae ( + ) / S. putrefaciens ( – )
・アルカリペプトン水での塩濃度
* 0%: S. algae ( – ) / S. putrefaciens ( + )
* 6%: S. algae ( + ) / S. putrefaciens ( d )
などで可能です。また、S. algaeはSS寒天培地でも小さいながらも発育してくる点がS. putrefaciensと異なります。
この菌はTSI寒天培地での硫化水素の産生はとても早く、1,2時間でこのように硫化水素の産生を確認できます。
血液寒天培地でのS. algaeのコロニーはムコイド状のみずみずしいコロニーを形成し、コロニーを掻き取ると粘々と糸をひくような感じです。48時間培養を続けると下記のようにβ溶血を確認できます。
ちなみに、今回の症例はCampylobacterを検出し、原因はCampylobacterによるものと考えられました。
その症例の2週間後にこんな症例が・・・
嘔吐と下痢を主訴の患者。脱水が激しく当院に搬送されました。食中毒狙いで培養を実施、アルカリペプトン水からTCBSに培養したものが以下の写真。
二つ目の症例は、腸炎ビブリオの感染性腸炎でしたが、Shewanella algaeも一緒に検出されました。並べてみると違いは明らかですね。