日々の検査から  No.7

下痢を主訴として外来受診した患者の便培養

糞便のグラム染色では有意な所見は認めず、通常の食中毒菌目的で培養実施。
アルカリペプトン水で増菌後にTCBS寒天培地に接種して培養したのが以下の写真

アルカリペプトン水で増菌後にTCBS寒天培地で培養  35℃ 18hour 好気培養

白糖非分解のコロニーを認めていますね。オキシダーゼ陽性(別培地にて実施)ということで、これは腸炎ビブリオですね・・・・  ところが、コロニーを良く見てみると…

TCBS寒天培地上のコロニーを拡大

硫化水素出してますね。腸炎ビブリオの顔とは異なることがわかります。
じゃあ なんだろうということで同定してみましょう!

まずは試験管培地各種

アルカリペプトン水
左から 0% 3% 7% 10% 見づらいですが3%と7%に発育あり

アルカリペプトン水 3%,7%に発育ということは、やはり腸炎ビブリオか?

左からシモンズクエン酸培地、TSI寒天培地、OIML培地、SIM、VP、DNase

Citrate   (−)
TSIは硫化水素産生、斜面部は(−)高層部はわかりづらいですが(−)です。
OIML インドール(−)、オルニチン(+)、リジン(+)、運動性(+)
SIM インドール(−)、運動性(+)、硫化水素(+)
VP(−)
DNase (+)

見慣れた技師の方なら最初のコロニーでピンと来るでしょう。
自動機器で同定すると・・・・

Shewanella algae

この菌はAchromobacterPseudomonas属などに分類されていたことのあるブドウ糖非発酵菌の仲間で、環境中に幅広く生息し、海にも生息する海洋バクテリアとして知られる菌です。病原性については不明で、コロナイゼーションとして検出されることがある菌ですが、日和見感染の原因菌としての報告例もあります。筆者も年に1,2度はお目にかかる菌です。
同定機器やキットによってはShewanella putrefaciensと同定されますが、データベースが不十分なためで、人体分離株の多くはShewanella algaeとされます。

Shewanella algaeShewanella putrefaciensを鑑別するには、
・42℃での発育  S. algae ( + )  / S. putrefaciens ( – )
・ヒツジ血液寒天培地での溶血   S. algae ( + ) / S. putrefaciens ( – )
・アルカリペプトン水での塩濃度
* 0%: S. algae ( – ) / S. putrefaciens ( + )
* 6%: S. algae ( + ) / S. putrefaciens ( d )
などで可能です。また、S. algaeはSS寒天培地でも小さいながらも発育してくる点がS. putrefaciensと異なります。

この菌はTSI寒天培地での硫化水素の産生はとても早く、1,2時間でこのように硫化水素の産生を確認できます。

Shewanella algae 血液寒天培地でのコロニー 35℃  5%Co2 18hour

血液寒天培地でのS. algaeのコロニーはムコイド状のみずみずしいコロニーを形成し、コロニーを掻き取ると粘々と糸をひくような感じです。48時間培養を続けると下記のようにβ溶血を確認できます。

Shewanella algae β溶血 ヒツジ血液寒天培地 48時間培養

ちなみに、今回の症例はCampylobacterを検出し、原因はCampylobacterによるものと考えられました。

 

その症例の2週間後にこんな症例が・・・
嘔吐と下痢を主訴の患者。脱水が激しく当院に搬送されました。食中毒狙いで培養を実施、アルカリペプトン水からTCBSに培養したものが以下の写真。


拡大してみると

左右の大きなコロニーは腸炎ビブリオ、中心下の黒いコロニーはS. algae


二つ目の症例は、腸炎ビブリオの感染性腸炎でしたが、Shewanella algaeも一緒に検出されました。並べてみると違いは明らかですね。

第2回研修会のお知らせ

<<終了しました>> 多くの参加者に集まって頂き大盛況だっため、さいきんけんさニュースが足りなくなり申し訳ありません。上記のさいきんけんさNewsのメニューに配布したPDFファイルを掲載しております。

今年度第2回目の研修会は日本感染症学会専門医である柳秀高先生をお招きして、抗菌薬についてご講演いただきます。

基本的な抗菌薬の使い方から日常私達が行っている感受性検査の結果を医師はどのように活用しているのか、また臨床に役立つためにはどのような検査・報告をすればいいかなど実践的な内容となっています。

※春からの感染防止対策加算もあり、細菌検査を外注している施設もよりいっそう耐性菌や感受性検査に対する知識が求められています。微生物検査担当していない方も是非ご参加ください。

テ ー マ
医師が求める感受性試験
講師 柳 秀高 先生
(東海大学医学部付属病院 総合内科 講師)

参加費 日臨技会員 1,000円 (他県の方も歓迎です)  非会員 8,000円
受付方式 会場受付 参加者予定数 60名
2012年 11月 30日 (金曜日) 19 時 00 分~ 20 時 45 分(終了時間が早まる場合があります)
かながわ県民活動サポートセンター 402会議室 (横浜駅西口徒歩5分)
〒221-0835 横浜市神奈川区鶴屋町2-24-2 TEL 045(312 )1121
生涯教育研修 専門 20点

会場周辺地図

以下のフォームで柳先生ならびにフロアに対する質問事項を事前に受け付けます。
時間の関係などで、すべての質問に回答できるかは保証できませんが、研修会のテーマ内容で困っていることなど事前に質問を受け付けます。